秋山仁挨拶

皆さん、こんにちは。このたび、京都芸術高校の名誉校長に就任いたしました秋山仁です。
私が芸術高校に知己を得た経緯と、京都芸術高校に対する思いを少し述べ、ご挨拶に代えさせていただきたく存じます。
今から5年ほど前のある日、午前中に宝塚で講演し、午後は芸術高校で加藤校長先生と貴校の機関誌“輪”に載せる対談をすることになっていました。あいにく、その日、私は滅多にひくことのない風邪をひいてしまい、39°もの熱を出してしまいました。宝塚の講演が終わって息も絶え絶えの状態であったのですが、貴校の橋本哲史先生がお迎えに来て下さり、重い荷物を持って私を支えて貴校まで連れて行って下さいました。橋本先生のお陰で私は無事高校に辿りつくことができ、引き続き
校長先生の優しいお心に触れ、有意義な教育談義をすることができました。また、学校の近くの色彩々の花が咲き乱れる、桃源郷を髣髴とさせるお寺に案内していただき、素晴らしい精進料理をお腹一杯いただき、すっかり元気を回復することができました。あのときの御住職にも感謝の気持ちで一杯です。これが貴校との熱い(?)出会いでした。
高校時代は、さしずめ、人生のラッシュアワー・タイムです。勉強の内容も難しくなり、部活や生徒会活動も活発になります。また、親から自立し、友達や先生とも深く交わることになります。ひょっとすると、恋に落ちる若者も現れるかもしれません。そんな中で、とりわけ大切なことは、将来自分がどんな職業に就いて、どんな仕事を成し遂げたいのかについてシッカリ考えることです。天職とは、自分にしかできない仕事、その仕事をしていることによって、自分が一番自分らしく生きていると実感できる仕事のことであると私は考えています。人生における進路決定の最初の段階、すなわち高校時代に、人生に対する可能性を大きく膨らましておくことが大切です。
自分の目標がハッキリすれば、その実現のためにおのずと努力をすることになり、結果として才能も次第に備わってくることになります。最近、私は、好んで、次の詩を若者たちに紹介しています。
『ある舟は東に進み,また他の舟は同じ風で西に進む。
ゆくべき道を決めるのは疾風ではなく帆のかけ方である。 海の風は運命の風のよう。
生涯という海路を辿るときゴールを決めるのは 凪か嵐ではなく魂の構えだ。』
(運命の風:ウィルコックス)
この芸術高校で、みなさんは同じ先生、同じ仲間と学ぶわけですが、当然人生航路の行き先も異なります。平穏な人生を送る人もあれば、波乱万丈な人生の人もあるでしょう。その際、シッカリした方針(魂の構え)さえ定めておけば、将来、必ずやあなたの目指す地点に辿りつくことができるとウィルコックスは述べているのです。
高校時代、もうひとつ重要なことがあると思います。それは、自分のやりたいことに自発的に取り組み、高校時代に獲得した知識や技術、体験が卒業後各々の人生において生きた血肉として応用できるようにしておくことです。そのような生きた能力は旺々にして机上の学びだけでは獲得しづらいことがあります。しかし、幸いにして、貴学は芸術高校なので、作品の制作に汗を流し、みずから自分の心に感じたことを絵にしたり、CGにしたり、デザインしたり、ときには、彫刻を彫って表現する機会に恵まれています。これらの勉強はすべて実学であります。その際、重要になるのは、技術を身につけることとともに、いろいろな感動の体験を豊かにすることです。芸術はすべて無から自分の心で何かをつくりあげる作業です。それは、人間の営みの中で、一番崇高なもののひとつです。
さぁ、皆さん、感性を研ぎ澄まし、知性を磨き、優しさと思いやりと勇気と責任感を身につけ、京都芸術高校生であることに大いにほこりを持って、世のため人のため驀進しようではありませんか。

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